コミュニケーションに配慮した打合せ家具・什器の開発
―議論と共同作業に適したワークスペース―
日本インテリアデザイン学会 第16回大会 研究発表梗概集 October 2004
木村戦太郎*・田村 雅司** (写真・図版は近日中に掲載します)
●開発の背景
今日のオフィスでは、的確な情報収集と創造性の発揮が、それぞれの組織および企業にとって最も重要な課題であることは言うまでもない。従って、情報処理の場としてのオフィスでは、ワーカー一人一人が取得した情報や、発想した考え(think)やアイディアを、如何に効率的・効果的に反応・融合・昇華させ、的確に評価するかが問われていることになろう。そして企業の未来を拓く“知”を生み出すためには、ワーカー間のコミュニケーションを活性化し創造性を誘発する、人間性に配慮した環境(surroundings)やエレメンツが求められていよう。高度情報化時代のオフィスでは、その様な創造的環境とはどんなものかが模索され続けているが、それは、適切なITの整備とともに、理論的アプローチだけでは見えてこない“人”の内面を巡る難しい問いかけでもある。
この問題で良く思い出すのは、10数年前に聞いた米国人ファシリティマネージャーの講演と、冊子の冒頭に掲載された四コマ漫画である。それは、初老の発明家が古い自宅のガレージで愛犬を足下に発明を連発、資金を貯めて高層ビルを建て新しいオフィスに感激するもののアイディアが浮かばなくなる。結局、元のガレージに戻って愛犬と一緒に嬉しげに発明を続ける、というものだった。業界に関わる者としては些か複雑な想いはあるが、これは一つの真実を突いていよう。人はそれぞれの経験を背負って眼前の環境を捉え感じて、行動する。人それぞれで環境認知が異なっているのであり、視覚的な美しさや人間工学的検討だけでは答えの見えない、人の生物学的基盤にも関わる問題だろう。又、人は出会いの中で成長するといわれ、若い音楽家が名演奏を聴いて感動した後で、力量以上の素晴らしい演奏をする場合があるというのも、人が“触発”されることを裏付けている。
開発側としては、コミュニケーションと創造の場としての、人と人の距離や位置関係、潜在意識を考慮した手触りやフォルムなど、自身の体験に静かに問いかける姿勢も必要だと考えている。
●企業担当者から
−「会議シーンの構築」を開発テーマとして選ぶ−
オフィスはつい10年ほど前まで、伝票処理など製造や販売の後工程の場であった。しかし成熟社会になると新しい価値を生み出すことが企業の至上命題となり、コラボレーションによって新製品や新ビジネスを生み出すことに関心が集まって、オフィスワークの重要性が認識された。会議の進め方をテーマとした書籍がベストセラーになり、ファシリテーションの活用によって企業再生の一助とした事例が発表されるなど社会の関心は高まってきた。しかし現実に会議は「形式的」「一方通行」など、マイナスイメージで捉えられることが多く、この悪いイメージを払拭することが開発課題の一つであった。
−開発体制とプロセス−
今回の開発では文化女子大学の木村教授に参画を依頼した。同教授はオフィス関連だけでなくさまざまな分野で活躍しているため、社内とは異なった角度の視点からのアドバイスを期待した。その他、社内異分野の商品開発担当者を加えて議論を交わし、開発フェーズがある程度進捗した段階では生産工場のメンバーをメーリングリストに加えるなど、情報の共有化を図りながらコンカレントな製品開発を志向した。そのプロセスはまさに「異分野メンバーによる問題解決を計る創造的会議」を自ら実践する結果となった。議論の拡散と収束、そしてまた拡散と、なかなか最終的なフォルムやスペックを決定できず、早く結果を出さなくてはいけないというプレッシャーとの板ばさみ状態が続いた。それでも何とか完成・発売に辿り着けたのは、意見はそれぞれ異なりながらも、全員が前向きな姿勢を共有していたからに他ならない。
●製品の概要
製品群は写真に示す様に、有機的フォルムのテーブルと、背面投影のクリアスクリーン、2タイプのワゴンと数タイプのボード類からなる。テーブルは3サイズ用意され、それぞれにホワイトボード仕様と配線機構付きがあり、高さは700mmHと900mmHの2種類がある。○製品の基本構想
用途・目的:打合せ、議論・討論・共同作業
ブレーンストーミング
議論等の形:臨機応変・目的探求型、非階層的
カジュアル・交流・触発型
規模・寸法:少人数(4人〜10人程度)
5〜20平米程度
構 成 員:社内(部門内)メンバー、固定的着座
プロジェクトチームメンバー
固定的メンバーによる family use
行為・行動:創造的 collaboration(協力・共同研究)
interactive(影響し合う)な共同作業
距離・位置:熱い議論に適した距離から、ややクールに
なれる距離。会話・共同作業に適した関係
が自由に選択可能
以下、主要製品を説明する。
○ミーティングテーブル
基本構想を基に検討を重ね、緩やかな曲線のアウトラインを持つテーブルデザインに辿りついた。この曲線は着座位置を控えめに示す目的と、人とテーブルの一体感を感じてもらう狙いを持ち、さらにその有機的ラインにより、参加者をリラックスさせる効果も意図している。この形状は何度も図面検討を重ね、原寸モデルでも修正を重ねてブラッシュアップしたものである。サイズは1200×2400,1200×2100,1200×1200の3サイズで、それぞれ8人・6人・4人程度に適している。これ迄にない、大きなホワイトボード面を持つドローイングテーブルは、議論を活性化させる効果が期待できそうだ。
○クリアスクリーン
510×650のアクリル板に特殊フィルムをラミネートしたもので、背面からの投影で美しい画像が得られるスクリーンである。打合せの際に画像を指さしても画像が遮られず、マーカーによる書き込みも可能な優れものであり、効果的なプレゼンテーションツールとなろう。テーブルトップ用とフロアスタンドタイプを用意した。
○プロジェクターワゴン・オピニオンボードワゴン
試行錯誤を重ねた結果、鉄パイプと鉄板と木材を用いて、カジュアルでナチュラルなイメージのデザインに仕上げた。ワゴンのグリップは操作性と手触りを重視して太めの木製とし、さらに天板・地板は打音に配慮してソリッドとしている。パイプの側面形状をカジュアルな曲線で纏めて、テーブルとのイメージ統合を図っている。
○ 製品写真・図面提供 株式会社ライオン事務器
*文化女子大学教授 **(株)ライオン事務器開発担当




